明治時代のグルメ小説『食道楽』を読む【歴史コラム】

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 こんにちは、馬渕まりです。愛知県犬山市には明治時代の色々な建物を展示した明治村という施設があります。そこに「食道楽のカフェ」という明治時代の小説『食道楽』のレシピを元に作った料理を提供してくれるお店があります。メニューを見るとカレーやあいすくりんとハイカラな品が。これは元ネタになった小説が気になりますよね。というわけで購入しました。(ちなみに著作権が切れているため青空文庫で読めます。)  

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嫁入り道具にもなったベストセラー小説

 食道楽は明治36~37年(1903-1904年)に報知新聞に連載された村井弦斎の小説で、単行本として刊行されるやいなや10万部を売り上げた大ベストセラーとなり、日本の食生活にも大きな影響を与えた本です。パラパラと読んでみますと、ストーリーは大食漢だが内気で心根の良い主人公大原と、大原の友人の妹で料理上手なお登和の恋愛物語。純朴ではあるもの大食いで大学留年歴のある大原を最初のうちは敬遠していたお登和ですが、周囲の説得もあり大原に嫁ぐことを決意します。しかし、そこに大原の従妹である田舎のお嬢様、お代が登場し…あまり書くと読む楽しみがなくなりますので筋書きはこのあたりにしておきます。
 ここに600余の料理が出てきまして、小説としてだけではなく料理の本としても人気だった模様。料理のラインナップがすごいのです。先に挙げたカレーをはじめ、シチューに鴨のロースト、ビフテキにはマッシュポテトを添えて、アイスクリームにワッフル…なんとタピオカまで登場いたします。ちなみにタピオカはスイーツではなく、病人食としてですけれど。洋食だけでなく東坡肉などの中華、もちろん和食も出てきますし、それらの折衷料理も。そして特記すべきは料理のうんちくです。

美味しんぼも真っ青な解説を見よ!

 解説の例を挙げると 豚肉に関して「豚の生肉には寄生虫がたくさんいる。」と述べられおり、注釈には 「豚の生肉には肉類の寄生物中最も恐ろしき旋毛虫および嚢虫のうちゅうあり。人もし半熟の豚肉を食すれば旋毛虫体内に発育して大害を招く。また嚢虫は人体に入りて絛(さなだ)虫と化す。」まったくもってその通りですね。  
 鰻に関しては、最近の研究で血液にイヒチトキシーンという毒があると書かれています。そうなんです、実は鰻の血液は毒性が強く調理する際に気を付けなければいけません。加熱すると分解されるので食べるときには問題にならないんですけどね。詳しくは厚労省のページをどうぞ。 https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_06.html  

 エネルギー、三大栄養素についても触れられており、春の巻の巻末には日用食品分析表がついております。

西洋料理の原則は生理学上から割出してある。働く人と働かぬ人と夏と冬とは少しずつ違うけれども種々いろいろな点を平均したその標準は体量五十基瓦きろぐらむ即ち十三貫目余の人は一日に二千カロリー、十九貫目の人は三千カロリーの食物を取らねばならぬとしてある。カロリーは君も知っての通り熱量の単位で食物が体温を保持する割合から定めたものだ。大きな鶏卵けいらん一個は八十カロリーだから鶏卵ばかり食べるなら十三貫目の人は一日に二十五を要する。十九貫目の人は三十七を要する。しかしそれでは人体に必要なる化学成分が不適当だ。食物の成分として十九貫目の人は一日に蛋白質たんぱくしつ百十八瓦ぐらむ即ちおよそ三十匁もんめ、脂肪が五十六瓦即ち十四匁、含水炭素が五百瓦即ち百二十匁にその余は水分とこう極きめてある。日本人は通常十三貫目位の平均だから一日に蛋白質二十匁脂肪九匁含水炭素八十匁位が適当だ。蛋白質と脂肪は重おもに肉や乳にあって含水炭素は野菜や穀物にあるから肉と野菜の分量もその割合で定めなければならん。

村井弦斎 食道楽 春の巻 第三十二 料理の原則より

  体重50㎏で2000kcal、70㎏で3000kcalはちょっとざっくりですが、大きく外れていないように感じます。エネルギーを摂取するのに卵が80kcalだから25個食べて…は不適当で蛋白質、脂肪、炭水化物の内訳も書いてありますね、3000kcalのうち蛋白質118g、資質56g、炭水化物500g、日本人の平均が体重50㎏だから内訳は蛋白質75g、脂質34g、炭水化物300g。計算すると蛋白質300kcal、脂質306kcal、炭水化物1200kcalと合計が1800kcalとなり(あれ、2000kcalじゃないの?)計算するとエネルギーベースで蛋白質16.7%、脂質17%、炭水化物66.7%となります。現代の基準と照らし合わせると脂質(基準20-30%)がやや少なく、炭水化物(基準50-65%)がやや多いですが、こちらも現代と大きくズレてはいません。  

娯楽小説でここまで詳細な栄養知識が書いてあるとは驚きですね。長くなりそうなので2回に分けます。次回をお楽しみに!

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